産後の運動はいつから?どのくらいやっていいの?

監修者

松永有紀

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

【プロトレーナー解説】出産でダメージを受けた体の回復のためにも、体型を戻すためにも、そして将来のためにも産後の運動は大切です。しかし、無理な運動はトラブルの元。産後の体を理解し、段階を踏んで運動を生活に取り入れましょう。

産後の運動はいつからやっていいの?

「出産直後だなんて信じられない!」そんな誉め言葉に憧れて、産後はしっかり運動してできるだけ早く元の体型に戻したい、なんなら元以上に引き締めたいと意気込む妊婦さんも多いのではないでしょうか?

産後に体型が変わってしまうのは避けたいです。

松永有紀監修トレーナーからのアドバイス

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

実際、一旦緩んだ骨盤周りが徐々に引き締まってくる産後は、産前より体を引き締めるチャンスでもあります。

しかし、出産は想像以上に体にダメージを与えます。にもかかわらず、産後は産まれたばかりの赤ちゃんのお世話という慣れない大事業が間髪入れず始まります。怪我や病気などからの回復には睡眠が欠かせませんが、産まれたばかりの赤ちゃんと一緒の生活はその大事な睡眠を取ることもままなりません。ゆっくり休んでダメージからの回復を待つ、というわけにはなかなかいかないでしょう。

体型を戻すことはいいこと、という風潮の中、自分が受けたダメージを客観的に把握しないまま「体型を戻さなくちゃ!」と思い付きで無理な運動をすると、ダメージからの回復を遅らせるばかりか将来に影響する痛手を負いかねません。

産後の回復のスピードは人それぞれ。本人だけでなく、赤ちゃんの性格や発育状況、家族の状況によっても変わってきます。周りと比べることなく、自分が今どの段階なのかを客観的に知ることが大切です。

ここでは産後の回復段階を

Ⅰ.傷からの回復期
Ⅱ.骨盤底筋群、腹筋群の回復期
Ⅲ.インナーユニットの回復期

の3つに分けて解説し、各段階に合わせた運動法をご紹介します。

なるほど。産後の経過期間によってやっていい運動は変わるんですね。

松永有紀監修トレーナーからのアドバイス

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

その通りです!

Ⅰ.出産直後 ー 傷からの回復期の運動

出産によるダメージ

出産から、日常生活に戻ってもよいと医師のOKが出るまでを第Ⅰ期とします。
出産方法に関わらず、産後は子宮内側の胎盤や卵膜が剥がれたものが出血を伴い分泌物などと共に体外へ排出されます。この血液交じりの排出物が悪露(おろ)です。悪露があるうちは子宮の内側は傷ついており、いわば大けがを負った状態であると考えましょう。

子宮の内側だけでなく赤ちゃんが産まれてきた道もダメージを受けています。経腟分娩は比較的ダメージが少ないと言われますが、会陰切開を行わなかった場合でも多少の自然裂傷が起きていることがあり、まったく損傷がないケースはまれでしょう。医療介入(会陰切開や吸引分娩、鉗子を使った分娩など)があった場合は間違いなく傷を負った状態であり、さらに感染症の危険があります。

帝王切開は筋肉を切るわけですからさらに大きな傷を負っています。かわいい赤ちゃんが産まれたことに目がいってしまい、周囲の人にはイメージがわかないかもしれませんが、このように出産とは大小あるものの「外傷を負う」ことなのです。

妊婦さんの体の変化についてはあちこちで詳しく解説されていますが、赤ちゃんが産まれた後は今度は赤ちゃんについてのことばかりで、産後の体がこんなにダメージを受けていることはあまり紹介されていないですね

松永有紀監修トレーナーからのアドバイス

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

そうなんです。大けがを負って、でも眠れず、さらに母乳はお母さんの血液を分け与えているわけですから産後というのは本当に大変なのです。

鮮血を伴う悪露は、子宮の回復と共に2週間ほどでだんだん褐色に変化してきます。その後、黄色、白色となり量が減り、経腟分娩の場合で4~6週間ぐらいでほぼなくなります。帝王切開の場合はもう少し長くかかることもあります。また出産に伴う外傷も、帝王切開の場合も含め、産後1か月程度で回復してきます。

通常、子宮の内側、そして外傷も回復してくる産後1か月後ぐらいに産後検診が行われ母体の回復具合が確認されます。ここで特に問題がなければ医師から日常生活に戻ってよいとOKが出ます。

出産直後の時期の運動

まずは傷を治すことが最優先です。できるだけ周囲の手を借り体を休めましょう。傷口が開いてしまうかもしれないので、当然ながら一般的な運動はNGです。とはいえ、絶対安静にしていればよいかというとそうではなく、ちょっとした意識とストレッチのような軽い動きが回復を早めます。この時期におすすめの動きは一般的に「産褥体操」として紹介されていますが、ここでは手軽で簡単、かつ産後の体に大切なものを3つ選びました。

1.シュー呼吸
骨盤の中に収まるぐらいの大きさだった子宮は赤ちゃんの成長と共にどんどん上に上がってきます。最終的には肋骨の下、横隔膜を押し上げるぐらいにまでになります。赤ちゃんの大きさで肋骨は横に広がり上に押し上げられ肺も圧迫されるので、妊娠後期、特に臨月には息苦しさを感じる妊婦さんも多いでしょう。

産後すぐに子宮は収縮を始めますが、下から押し広げられた肋骨はすぐには戻らず、息苦しさを感じるままかもしれません。そこで、肋骨の位置を戻すのを助け呼吸を楽にするのがシュー呼吸です。

<やり方>
・口をすぼめ、舌をどこにもつけず(英語でRの音を発音する時のように)強く息を吐きだしながら「シュー」と音を出してみる。
「シュー」と息を吐きだすと肋骨の下、おへその斜め上あたりがキューっと引き締まったようになります。このあたりに肋骨と骨盤をつなぐ腹斜筋があります。呼吸に合わせて腹斜筋を使うことで広がった肋骨を戻し、さらにはウエストを引き締める効果があります。

2.アームサークル
立っていても座っていても床やベッドに仰向けでもできる動きです。慣れない授乳やオムツ替えで丸まりやすい背中を使います。

<やり方>
・息を吸いながらゆっくり腕をバンザイします。この時腰を反らないように注意します。
・吐く息に合わせて腕を横に下ろします。この時シュー呼吸をするとさらに効果的です。

鎖骨、肩甲骨のあたりの筋肉が使えていることを確認しましょう。

3.ウインドジップ
こちらの記事でも詳しく紹介している骨盤底筋群を収縮させる呼吸法です。

産後すぐはお尻や内ももの筋肉はまだあまり使いたくないので、骨盤底筋群だけを使える以下のポーズで行ってみましょう。
・両手で軽く握りこぶしをつくり、床につける。ひじもつける。
・ひざをつき、お尻を斜め上に突き上げるようにする。
・息を吐くときに、肛門→恥骨→おへそ、とやさしくチャックを引き上げるようにイメージする。

Ⅱ.骨盤底筋群、腹筋群の回復期の運動

外傷が癒えたら

出産による傷が癒え、後述する腹直筋の離開がほぼ気にならなくなる産後6か月ぐらいまでを第Ⅱ期とします。

産後検診で医師のOKが出ればいよいよ軽い運動をしてもよくなります。ただし、この時期はまだまだ体は産前の状態には戻っていません。妊娠時は約9ヶ月かけてだんだん大きくなる赤ちゃんや子宮の重みに合わせて体のバランスが変わっていきました。しかし産後は一気に赤ちゃんや子宮の重みがなくなるにも関わらず、体はすぐには重心の変化には対応できないのです。

赤ちゃんの重みに合わせて、一般的には妊婦さんの姿勢は以下のように変化し、産後しばらくはこの状態が続きます。

・体の前側が重くなるため、骨盤も引っ張られて前に傾き、いわゆる反り腰の状態になります。
・骨盤が前に引っ張られ、背骨の腰の部分(腰椎)が前に傾くので、バランスを取るように背骨の上の方(胸椎頸椎)も不自然に引っ張られた状態になっています。

・腰椎が引っ張られた状態だと、歩くときに必要な腰椎の回旋(回す動き)がうまくできません。それを補うように胴体の上の方が過剰に動き、お尻の筋肉は充分に働かなくなってしまいます。
・お腹が大きくなるために引っ張られた腹筋や重みを支えていた骨盤底筋群が弱くなっています。

この時期のおすすめの運動

この時期は上で挙げた体の状態を修正し、元に戻すことを念頭においたエクササイズを行うとよいでしょう。「産後ママのための」「産後リカバリー」などと銘打っているヨガやピラティス、体操などのクラスはこの時期に適したポーズやエクササイズを選んでプログラムが組まれています。また、自治体主催や公共施設のサークルなどには赤ちゃん連れで参加OKのリカバリーエクササイズのクラスなどもありますので是非探してみてください。

ここでは自宅でも簡単にできるおすすめのエクササイズを3つご紹介します。

1.ペルヴィック・チルト
仰向けの状態で骨盤を後ろに傾ける、小さい動きのシンプルなエクササイズです。骨盤と腰椎の位置を整え骨盤底筋群や体の奥にある腹筋を鍛えるので、産後の代表的なお悩み、尿漏れにも効果があります

<やり方>
・マットの上に仰向けになりひざを立てます。脚の幅は骨盤幅ぐらい、ひざの真下にかかとがくるぐらいの脚の幅にしておきましょう。骨盤はニュートラル(前にも後ろにも傾いていない状態。目安はおへそと恥骨を結んだラインが床と平行になるぐらい)にセットします。

・骨盤をニュートラルにセットできていると、腰の後ろには手のひらが一枚入るぐらいのスペースができているはずです。そのスペースを徐々に潰すように、息を吐きながら恥骨を天井に向け、背骨を尾てい骨から順番に下から巻き上げるように動かします。

・背中がペタっとマットについたら、吸う息で元に戻していきます。

・背中がマットについたときは、おへそを背骨に近づけるようにするとよいでしょう。

・息を吐くときはウインド・ジップを組み合わせると効果的です。

・10回ほど繰り返してみましょう。

・尾てい骨がマットに当たって痛い場合はタオルやブランケットをお尻の下に敷きましょう。

2.ショルダーブリッジ
ペルヴィック・チルトで背骨の下の方をうまく動かせるようになったらもう少し上の方の背骨も動かしてみましょう。背骨を整え、骨盤底筋群や腹筋群をさらに強化し、ハムストリングスやお尻の筋肉も強化できます。

<やり方>
・ペルヴィック・チルト同様に仰向けでひざを立て、骨盤をニュートラルにセットします。

・ペルヴィック・チルト同様に、吐く息に合わせ恥骨を天井に向け、背中がマットにピタッと着くところを通って、さらにもう少し上の方まで背骨をマットからはがしていきます。

膝と肩が斜め一直線になるところまで体を持ち上げます。胸を反らせ過ぎないように注意しましょう。背骨と背骨の間の隙間を広げるようにイメージしてみます。

・斜め一直線になったら息を吸い、息を吐きながら今度は背骨を上から順番にマットに戻していきます。

・5回ほど繰り返しましょう。

・ペルヴィック・チルト同様、息を吐くときはウインド・ジップを組み合わせると効果的です。

3.スパインツイスト
背骨を一つ一つ回すように動かす「回旋」の動きは、背骨回りにある小さなインナーマッスル、多裂筋や回旋筋を使います。

うまく回旋させるためには骨盤底筋群や腹筋群も使い骨盤を安定させておく必要があるので、これらの筋肉も強化できます。こちらもウィンドジップを組み合わせて行ってみましょう。
<やり方>
・あぐらの状態、または脚を肩幅に開いて立った状態で行います。恥骨や仙骨に痛みがある場合、あぐらは避けるようにします。

・両手の平を合わせ、胸の前に持ってきます。ひじを軽く横に張ります。

・息を吸って準備をしたら、息を吐きながら背骨の一番上(だいたい耳の穴の高さのあたりです)から順番に少しずつ右に回していきます。

・肋骨の下、シュー呼吸で意識した腹斜筋が動きを邪魔するような感じがしたらストップ、今度は息を吸いながら背骨の一番下(腰のあたり)から順番に回して真ん中に戻ってきます。

・骨盤を動かさないように、骨盤底筋群や腹筋を意識してみましょう。

この時期の腹筋

腹筋と一口に言っても、腹斜筋や腹横筋などいくつか種類があります。そのうちだれもが真っ先に思い浮かべるのがおなかの表面にあり、6つに割れる腹直筋でしょう。シックスパックの名でも知られる腹直筋は6つのブロックに分かれています。それをつなぐのが白線と呼ばれる繊維質の組織です。
赤ちゃんが大きくなるにしたがって大きくなるおなかですが、おなか表面の腹直筋の筋肉部分にはあまり伸びる余地がありません。そのかわりどこが伸びるかというと白線の部分です。産後すぐは白線の部分は伸びたままになっており、6つの腹直筋が離れています。この状態を「腹直筋離開」と呼びます。通常は半年ぐらいかけてゆっくり戻っていきます。
注意していただきたいのはこの「腹直筋離開」の状態で腹直筋を使うトレーニングをしないということです。離開したまま学校でやったような腹筋運動(上体起こし)などを行うと、腹直筋が強化されすぎて短くなったり、腹直筋の端が更に外側に引っ張られて離開がひどくなってしまいます。こうなってしまうと腹部はさらに弱くなり、ひどい場合は内臓が飛び出すヘルニア状態を引き起こします。

ウインドジップやペルヴィック・チルトなどは骨盤底筋群を収縮させ、腹筋は腹筋でも腹横筋や内腹斜筋などの体の深部にある筋肉を鍛えます。まずこれらの筋肉を鍛え、体の奥から閉じていくように整えましょう。奥の筋肉が引き締まってくると離開していた体の表面にある腹直筋も戻りやすくなります。

松永有紀監修トレーナーからのアドバイス

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

ポッコリお腹を引き締めたい、と真っ先に思い浮かべるのは上体起こしかもしれません。しかし、産後早い段階での腹筋運動は思いもよらないトラブルを招くかもしれないので十分注意してください。

Ⅲ.インナーユニットの回復期の運動

通常産後6か月ほどで離開していた腹直筋も元に戻り、骨と骨の間をつなぐ靭帯を緩ませていたホルモンの働きも落ち着いてきます。腹直筋の離開が問題ない程度になってからが第Ⅲ期です。

仰向けでひざを立てた状態から少し上体を起こし、おへその下あたりを指で触れてみましょう。腹直筋が離開していると指がずぶっと入ってしまいますが、普通に弾力があれば通常問題ありません。心配な場合は産後の体に理解のあるトレーナーや整体師などにチェックしてもらうとよいでしょう。

この時期になればいよいよ筋トレや有酸素運動など通常の運動をしてもOKとなります。ただし、一旦は全ての靭帯がホルモンの影響で緩んだ体です。体全体がばらばらなイメージです。そこで大切になってくるのがインナーユニット(またの名をコア)の意識です。コアについてはこちらの記事で詳しく解説したので是非ご確認ください。

ここでは敢えてインナーユニットという言葉を使いましたが、ユニットという言葉は「単位」などと訳されます。この「単位」は一つの要素でできているのではなく、いくつかの要素で構成するものを意味します。コアを構成する筋肉がまとまって1つのユニットとして働く、いったんばらばらになった体をユニットとして動かす、その感覚を取り戻していくことが大切になってきます。

この時期になったら、コアを意識でき、四肢をダイナミックに動かしてもぶれない体づくりができる運動がお勧めです。無理をしないよう、少しづつ体を動かしましょう。ピラティスのエクササイズはどこか特定の筋肉だけを使った時ではなく、ユニットとして動かせた時によりスムーズにできるように考えられています。産後の女性にはぴったりですので是非試してみてください。

松永有紀監修トレーナーからのアドバイス

Body Control Pilates マットワークティーチャー、産前/産後インストラクター、シニアピラティスインストラクター

産後はその後の長い人生を考えるととても大切な時期です。「どうにかなる」と無理をしないで、家族に助けてもらう、行政、民間サービスなどをうまく利用するなどして体の回復をはかってください。赤ちゃんにばかり目が行きがちですが、自分の体も大切にしてくださいね。

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