筋トレ時の飲酒は筋肉を本当に分解するのか?正しい知識とアルコールとの付き合い方

監修者

千陽 ハーヴェイ

NSCA認定パーソナルトレーナー

「アルコールが筋肉を分解する」ということは医学的に支持された事実です。しかし筋トレ時には1杯の飲酒も許されないかというと全くそんなことはありません。1杯の飲酒が筋肉の分解に及ぼす影響は非常に小さいという研究結果が出ています。アルコールと筋肉の正しい知識を解説します。

筋トレと飲酒は相性が悪い!?

筋肉をつけたくて筋トレを頑張っているんですが、お酒も飲みたいです…。お酒はやっぱり我慢するべきなんでしょうか?

千陽 ハーヴェイ監修トレーナーからのアドバイス

NSCA認定パーソナルトレーナー

アルコールが筋肉を分解するというのは事実です。しかしアルコールは絶対にダメかというとそんなこともありません。

多くのサイトでは「アルコールは筋肉を分解するから筋肉を育てるためには絶対にダメだ!」といった内容が記載されていますが、それは誤りです。

海外でアルコールと筋肉の成長や、飲酒と筋トレのパフォーマンス低下については科学的に支持された実験が行われ、1杯の飲酒が筋肉の成長を妨げる絶対的な要因とは言い切れないという結論が出ています。

そうなんですね!知りませんでした。

筋トレ時、筋肉を成長させたいときのアルコールとの正しい付き合い方を解説していきます。

飲酒は筋トレ時のパフォーマンスを落とすのか?

まず前提として、アルコールは筋肉に悪いです。その理由に以下のようなことが挙げられます。

・アルコールは体内でミオスタチンという成分を増加させ、筋肉量の増加を妨げる
・筋肉のエネルギーになるグリコーゲンの再合成を妨げる
・筋トレ後の炎症を減少させる(筋肉の成長を妨げる)

しかし、1杯の飲酒が上記のような現象を引き起こすかというとそんなことはないのです。

Sports Medicineの2014年6月号に掲載されたMatthew J. Barnes氏による研究によると、6杯のアルコールを飲ませた後で、筋力と筋持久力のテストを行なったところ、飲酒しなかった場合と比較して、アルコールが及ぼす筋力への影響が観察されなかった。

同じような他の研究においても、テストの事前に5杯アルコールを飲ませたグループも飲酒しなかったグループと比較して、筋力や、筋肉の凝りや痛み(筋肉痛など)に影響がなかったと結論づけた。

このように運動前の飲酒は、筋トレのような無酸素運動のパフォーマンスには影響を及ぼすことはないのです。(酔ってしまうのは別問題ですが)

しかし、アルコール成分が高い飲料は、体が脱水を起こす可能性が高くなります。(アルコールを飲むとトイレが近くなる)そのため、飲酒して持久系のスポーツをすることは推奨できません。

実際に運動前の飲酒は有酸素系のパフォーマンスには悪影響が見られたそうです。アルコールは有酸素系の運動パフォーマンスに悪影響があるので、ランニングや水泳、スポーツをする際には避けた方が良いでしょう。

飲酒と筋トレの効果を促すホルモンの関係

筋トレを行うとテストステロンという筋肉の修復や成長を促すホルモンが分泌されます。筋肉を育てるためにはこのようなホルモンの分泌は欠かせません。

「飲酒をするとテストステロンの分泌量が低下するため筋肉の成長を妨げる」と多くのサイトでこのようなことが記載されています。しかしこれは一概にそうとは言い切れないのです。

Appetite誌の研究報告では、3週間毎日2、3杯ビールを飲んだグループは筋肉を作る男性ホルモンであるテストステロン値が6.8%減少した、という結果がありました。

しかし、他にトレーニングに精通した被験者を使って、アルコールによる運動後のホルモン反応を調べた研究もあります。

この研究では被験者の半数に、トレーニング後に5杯のアルコールを飲ませ、5時間後のホルモンのレベルを観察した。
するとどちらのグループにもテストステロンやその他のホルモンレベルに差がなかったとの結果が出た。ストレスホルモンであるコルチゾール値の上昇が飲酒したグループには見られたが、それもほんの少しの期間だった。

この結果から、筋トレの効果を促すホルモンが飲酒によって分泌が悪くなるとは言い切れないのです。世界トップレベルのアスリートや、ボディービルダーでも平均2、3杯飲んで筋肉と筋力を継続的に高めている人たちもいます。

しかし、持久系の運動には飲酒は不利に働きます。ある研究において、有酸素運動を疲労するまで行い、10杯アルコールを飲ませたとことろ、テストステロンの生産が抑制されたと結果が出ています。

よって、飲酒と筋肉の成長に関するホルモンについては以下のように言えます。
「1日1、2杯の飲酒であれば筋肉を失う危険性がない。7杯以上日常的に飲むようなヘビードリンカーは、その他の栄養素をアルコールに変えてしまうので、筋肉を失って弱くなる」

【参考文献】
Bianco A, etc (2014)”Alcohol consumption and hormonal alterations related to muscle hypertrophy”

飲み過ぎはさすがに筋肉に悪影響を及ぼすということですね。

千陽 ハーヴェイ監修トレーナーからのアドバイス

NSCA認定パーソナルトレーナー

その通りです!

飲酒の時間と筋トレの関係

前章で述べたように筋トレ前の飲酒が筋トレのパフォーマンスを低下させる、とは言い切れないので、「お酒が抜けきってから筋トレをした方がいい」という一般的に考えられている理論も正しいとは言えません。

もちろん、酔っ払うほど飲んで筋トレを行うことは怪我の危険があるので避けてください。

個人差はありますが、一般的には女性であれば1日1杯、男性であれば2杯を目安に、量と頻度を抑えて飲んでいれば問題ありません。

ちなみに、毎日2杯飲むのと、週末に一度に7杯飲むのとでは、たとえ総合の摂取量が一気に飲むほうが少なくても、一度に一気に飲む方が、身体への悪影響が高くなります。一度に飲む量には注意してください。

「ビールを飲むと太る」は本当か?

サラリーマンの出っ張ったお腹のことを「ビール腹」などと揶揄することがありますが、ビールやアルコールは果たして本当に太る原因となるのでしょうか?

ビールのカロリーは100gあたり約40kcalであり、缶ビール1杯分のアルコールは約150kcalほどです。
この数字だけ聞くとやはりビールはカロリーが高いと感じるかもしれませんが、アルコールに含まれているエタノールは人体では消化できない成分なので、毒素とみなして他の栄養素(タンパク質、糖質、脂質)よりも優先して代謝するのです。

糖質を体内で消化するときの熱代謝がカロリーの5%なのに比べ、アルコールは20%もの熱代謝があります。

つまり、仮に普段の食事と同じだけのカロリーをビールで摂取してもビールを飲んだときのほうが太らないのです。(飲み過ぎは肝臓に負担がかかるので控えましょう)

また、ビールには苦味があり、苦味化合物は空腹を抑制する化合物であるGLP-1を分泌するため、これも太りにくい原因になります。

えっ、ビールは食欲を促進するのではなく空腹を抑制するんですか!?

千陽 ハーヴェイ監修トレーナーからのアドバイス

NSCA認定パーソナルトレーナー

その通りです。それでも太る原因は次に述べます。

では、酒席が多いサラリーマンの方々はなぜ太ってしまうのでしょうか?

それはアルコールと一緒に摂取する食べ物のせいです。
アルコールは前述したように優先して代謝されるため、それと同時に摂取している食べ物は消費されにくくなるのです。

つまり、お酒を飲みながら普段と同じだけのカロリーを摂取してしまうと普段より消費されないため太ってしまう、ということなのです。
酒席ではタンパク質と野菜を中心とした食事を摂ることがおすすめです。

ハイボールがオススメ

どうしてもお酒を多く飲んでしまう方はお酒をハイボールに置き換えましょう。ハイボールは低糖質なのでビールなどに比べてカロリーを抑えることができます。

その他の低糖質のお酒として、焼酎やジンといった蒸留酒を選ぶようにしましょう。

まとめ

アルコールが一概に筋トレに悪い、ということが言えないことが理解できたでしょうか。
飲み過ぎは決して良くありませんが、「筋肉を育てるためだ!」と自分に言い聞かせて無理に飲酒を我慢すると、それこそ身体に良くありません。

千陽 ハーヴェイ監修トレーナーからのアドバイス

NSCA認定パーソナルトレーナー

飲みたい場合は適度な量に押さえながら筋トレライフを過ごしてください。