
ヨガのレッスンで「呼吸を止めないで」「鼻から吸って、ゆっくり吐いて」と言われても、動きながらでは難しく感じるものです。呼吸を意識しすぎて、かえって苦しくなった経験がある人もいるでしょう。
ヨガの呼吸法は、単に大きく息を吸う練習ではありません。呼吸を観察し、一定のリズムへ整えながら、ポーズや心の状態と結びつけていく実践です。初心者は難しい技法や長い息止めをせず、楽な姿勢で鼻から静かに吸い、苦しくない長さでゆっくり吐くところから始めれば十分です。
- ヨガの呼吸法は「プラーナーヤーマ」と呼ばれる
- 初心者は自然な鼻呼吸を3〜5回観察するところから始める
- 吸う量を増やすより、力まず滑らかに吐くことが大切
- 速い呼吸・長い息止め・ナウリは自己流で行わない
ヨガの呼吸法とは?
ヨガにおける呼吸法は、サンスクリット語で「プラーナーヤーマ」と呼ばれます。「プラーナ」は生命エネルギーや息、「アーヤーマ」は拡張・調整などを表す言葉です。伝統的なヨガでは、呼吸を整える実践はポーズと瞑想をつなぐ重要な要素と考えられてきました。
ただし、プラーナーヤーマは腹式呼吸だけを意味するものではありません。鼻や喉の使い方、吸う・吐く長さ、左右の鼻孔、音、息を止める時間などを組み合わせた多くの種類があります。初心者がすべてを覚える必要はなく、まずは呼吸を止めずにポーズを続けられることが目標です。
ヨガの成り立ちやポーズ・瞑想との関係は「ヨガとは?効果・種類・初心者の始め方」で詳しく解説しています。
ヨガで呼吸を大切にする理由
今の身体の状態に気づきやすくなる
難しいポーズを無理に取ろうとすると、肩や顔に力が入り、知らないうちに息を止めがちです。呼吸が急に浅くなる、乱れる、止まるという変化は、負荷が強すぎるサインになります。呼吸を観察すると、見た目の完成度ではなく「今の自分に無理がないか」を判断しやすくなります。
動きのリズムを作りやすくなる
一般的には、胸を開く・腕を上げる動きでは吸い、前屈する・体を小さくまとめる動きでは吐きます。必ずこの組み合わせでなければならないわけではありませんが、呼吸に動きを合わせると、ポーズを急がず滑らかにつなぎやすくなります。
気持ちを落ち着けるきっかけになる
ゆっくりした呼吸を扱った研究では、自律神経や心拍変動、心理状態との関連が報告されています。一方、研究ごとに方法や対象者が異なり、呼吸法だけで病気や不調が治ると断定できる段階ではありません。呼吸法は医療の代わりではなく、心身の状態を整える補助的な実践として捉えましょう。
初心者向け|基本的なヨガ呼吸のやり方
最初は秒数を厳密に数えず、3〜5呼吸だけ行います。床に座りにくい人は、椅子に浅く腰掛けても構いません。
- 楽な姿勢を作る:背筋を無理に反らさず、頭頂が上へ伸びるように座る。肩・あご・眉間の力を抜く
- 呼吸を観察する:変えようとせず、鼻を通る空気や胸・お腹の動きを1〜2呼吸感じる
- 鼻から静かに吸う:お腹だけを突き出さず、下腹部・脇腹・背中まで穏やかに広がるイメージを持つ
- 鼻からゆっくり吐く:肩を落とし、胸とお腹が自然に戻るのを感じる。最後まで絞り切らない
- 3〜5回繰り返す:苦しくなければ、吸う時間より吐く時間をわずかに長くする

「4秒吸って8秒吐く」などの数字は目安にすぎません。息が足りなくなる人は、2〜3秒吸って3〜4秒吐く程度でも十分です。吸う前や吐いた後に長く止める必要もありません。終わったときに呼吸が荒くならず、もう一度自然に吸える長さを選びましょう。
初心者が知っておきたいヨガ呼吸法の種類
| 呼吸法 | 特徴 | 初心者向き |
|---|---|---|
| 自然呼吸・腹式呼吸 | 胸とお腹の穏やかな動きを観察する | ◎ |
| ウジャイ呼吸 | 喉を軽く狭め、静かな摩擦音を作る | ○ |
| 片鼻呼吸 | 左右の鼻孔を交互に使う | ○ |
| ブラーマリー | 吐きながらハミング音を響かせる | ○ |
| カパラバティ・バストリカ | 腹部を使う速く力強い呼吸 | △ 指導推奨 |
| ナウリ | 息を吐いた状態で腹部を操作する高度な技法 | × |
1.自然呼吸・腹式呼吸
初心者の土台になる呼吸です。片手を胸、もう片方をお腹へ置き、吸うときにお腹と脇腹が広がり、吐くときに戻る動きを感じます。「腹式」という名前でも胸がまったく動かないわけではありません。横隔膜の動きに伴って、胴体が立体的に広がる感覚を探します。
2.ウジャイ呼吸
喉の奥を軽く狭め、吸う息と吐く息に「スー」という小さな摩擦音を作る呼吸です。海の波の音に例えられ、動きの多いヨガでリズムを保つために使われます。
練習するときは、まず口を開けて鏡を曇らせるように「ハー」と吐きます。次に喉の形を大きく変えず口を閉じ、鼻から静かに吐いてみましょう。音を大きくしようと喉を締めつける必要はありません。違和感や息苦しさが出るなら自然呼吸へ戻します。
3.片鼻呼吸(ナーディ・ショーダナ)
片方の鼻孔を指で閉じ、左右交互に呼吸する方法です。楽な姿勢で座り、右の鼻孔を閉じて左から吸う、左を閉じて右から吐く、右から吸い、右を閉じて左から吐く、という流れで1セットです。
初心者は息を止めず、2〜3セットから始めます。鼻詰まりがある日は無理に行わず、指で鼻を強く押さえないでください。左右の順番を間違えても危険というわけではないので、焦らず自然な呼吸へ戻りましょう。
4.ブラーマリー呼吸
鼻から吸い、口を閉じたまま「んー」とハミングしながらゆっくり吐く呼吸です。蜂の羽音に似ていることから「蜂の呼吸」とも呼ばれます。音の振動を顔や頭に感じながら、3〜5回繰り返します。
大きな声を出す必要はありません。耳や鼻の不調があるとき、音や振動で痛み・不快感が出るときは中止してください。
5.カパラバティ・バストリカ
カパラバティは腹部を素早く引き込んで力強く吐く技法、バストリカは吸う息と吐く息の両方を力強く繰り返す技法です。ゆっくりした呼吸とは作用や体感が異なり、めまい、過呼吸のような感覚、動悸などが起こることがあります。
初心者が動画を見ながら長時間行うのは避け、経験のある指導者のもとで短時間から学びましょう。米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)も、ヨガ初心者は力強い呼吸などの極端な実践を避けるよう案内しています。
6.ナウリ
ナウリは、息を吐いた状態で腹部をへこませ、腹直筋を分離するように動かす高度な浄化法です。初心者向けの「呼吸を整える練習」とは別物であり、長い息止めや強い腹圧を伴います。自己流では行わず、詳しく知りたい場合は「ヨガの呼吸法『ナウリ』とは?」を確認したうえで、専門的な指導を受けてください。
ポーズ中はいつ吸って、いつ吐く?
- 吸う:腕を上げる、胸を開く、背筋を伸ばす
- 吐く:前屈する、ねじりを深める、体を小さくまとめる
- 姿勢を保つ:自然な呼吸を繰り返し、止めない
この原則に合わせようとして動きが混乱するなら、順番より呼吸を止めないことを優先します。ポーズに入ってから一度姿勢を小さく戻し、自然に呼吸できる場所を探してください。自宅で練習する場合は「ヨガ初心者向けメニュー|自宅でできる基本ポーズ」の短い流れに呼吸を合わせると練習しやすくなります。
ヨガ呼吸がうまくできない原因とコツ
深く吸おうとしすぎている
「深呼吸」と聞くと、肺いっぱいまで吸わなければならないと考えがちです。しかし、吸いすぎると胸や肩が緊張し、次の息を吐きにくくなります。満杯を目指さず、普段より少し丁寧に吸う程度にしましょう。
お腹を無理に膨らませている
腹式呼吸は、お腹を前へ押し出す運動ではありません。ベルトの内側全体がゆるく広がるように、脇腹と背中にも呼吸が入る感覚を探します。手を脇腹へ当てると動きを確認しやすくなります。
姿勢を良くしようと力んでいる
胸を張りすぎたり腰を反らしたりすると、横隔膜や肋骨が動きにくくなります。お尻の下に畳んだ毛布を入れる、壁にもたれる、椅子を使うなどして、努力しなくても座れる姿勢を作りましょう。
秒数や正解を気にしすぎている
同じ人でも、その日の体調やポーズによって呼吸の長さは変わります。数えると緊張する場合は、鼻を通る空気の温度や、吐く息とともに肩が下がる感覚へ注意を向けます。呼吸が自然に続くことが最優先です。
呼吸法を行うときの注意点
- めまい、手足や口の周りのしびれ、動悸、吐き気、胸痛、強い不安感が出たらすぐ中止する
- 呼吸を止めたくなったら、秒数を短くするか自然呼吸へ戻す
- 食後すぐや飲酒後、発熱・体調不良時は強い呼吸法を行わない
- 高血圧、心臓・肺の病気、緑内障、てんかんなどの持病がある人は医療者へ相談する
- 妊娠中は長い息止めや強い腹圧を避け、マタニティヨガの指導者へ相談する
- 不安障害やトラウマがあり、呼吸への集中で苦しくなる人は目を開け、周囲を見ながら自然呼吸へ戻す
呼吸法は我慢比べではありません。速い呼吸や息止めを含む研究では有害事象も報告されており、特に初心者は「長く・強く」より「短く・穏やかに」を選びましょう。症状が続く場合は呼吸法で対処しようとせず、医療機関へ相談してください。
初心者はいつ・何分行えばよい?
最初は1回1〜3分で十分です。朝起きた後、ヨガの開始前、仕事の休憩、就寝前など、落ち着いて座れる時間に行います。毎日でなくても構いません。短時間でも「姿勢を整える→3〜5呼吸観察する」を繰り返すほうが、無理に10分続けるより習慣にしやすいでしょう。
ポーズ練習では、始めに1分、終わりの休息で1分だけ呼吸を観察する方法もあります。ヨガの頻度や継続による変化は「ヨガの効果はいつから?週何回・毎日続けた場合の変化」も参考にしてください。
ヨガの呼吸法に関するよくある質問
ヨガは鼻呼吸でないといけませんか?
基本は鼻呼吸ですが、鼻詰まりや体調によって難しい場合があります。無理に鼻だけで行って息苦しくなるより、楽に呼吸できる方法を優先してください。特定の呼吸法では口から吐くものもあります。
腹式呼吸と胸式呼吸はどちらが正しいですか?
どちらか一方だけが正解ではありません。リラックスを目的とした練習では腹部や下部肋骨の広がりを感じる呼吸が使われ、動きのあるヨガでは胸郭全体も動きます。お腹だけ、胸だけと固定せず、胴体が立体的に動く自然な呼吸を目指します。
吐く時間は吸う時間の2倍にすべきですか?
必須ではありません。長く吐くと苦しい人が無理に比率を守ると、次に大きく息を吸い込むことになります。まずは吸う・吐くを同じ程度にし、余裕がある場合だけ吐く時間を少し伸ばします。
呼吸法だけでもヨガになりますか?
プラーナーヤーマはヨガを構成する重要な実践の一つです。ポーズを行わず呼吸を観察する日があっても構いません。ただし、病気の治療や運動の代わりになるとは限らないため、目的に応じて身体活動や医療と組み合わせて考えます。
まとめ:初心者は「気持ちよく続く鼻呼吸」から
ヨガの呼吸法には多くの種類がありますが、初心者が最初に覚えたいのは、楽な姿勢で鼻から静かに吸い、力まずゆっくり吐くことです。秒数や深さより、呼吸が止まらず、終わった後も自然に続くことを大切にしましょう。
自然呼吸に慣れたら、ウジャイ呼吸、片鼻呼吸、ブラーマリーを短時間から試せます。カパラバティ、バストリカ、長い息止め、ナウリなどは自己流で行わず、経験のある指導者から学んでください。呼吸をコントロールする前に、今の呼吸へ気づくこと。それが初心者にとって最も安全で実用的なスタートです。


